放射線治療科

放射線治療科について

  • 放射線を体外から照射して、悪性疾患(癌全般や肉腫等の悪性腫瘍、白血病や悪性リンパ腫等のいわゆる「血液のがん」)、および、一部の良性疾患(ケロイドや脳腫瘍、胸腺腫、甲状腺眼症等)を治療します。
  • 外科手術や薬物療法も併用する集学的治療で、効果の増強を図ります。
  • 定位放射線治療(SRT/SBRT)や強度変調放射線治療(IMRT, VMAT)といった高精度な照射法を積極的に利用することで、周囲臓器を避けながら病変に放射線を強力に集中させることが可能となり、より効果的でかつ身体への負担が軽くなる治療を実践しています。
  • 心臓に優しい放射線療法として、左乳癌の深吸気息止め法(DIBH法)を実施しています。
  • 既に転移が生じていたり、広い範囲に腫瘍が認められたりして、他の方法では治療が困難と考えられる場合でも、症状の緩和や生活の質(QOL)の改善を目指した治療を行っています。

連携医の先生方へ

  • 放射線治療をお考えの患者さんがいらっしゃいましたら、その旨をお書き添えの上、それぞれの疾患の当該科(例:肺がんなら呼吸器内科、前立腺がんなら泌尿器科、等)に宛ててご紹介ください。
    当科と速やかに連携の上、併用薬剤等も含めた治療方針を検討し、患者さんにご提案いたします。
  • 当科に直接御紹介いただいた場合は、改めて当該科宛ての紹介状をお願いする場合がございます。
  • 放射線治療の御相談のみも承ります。

主な疾患

全身のがんを対象としていますが、主なものは以下の通りです。

  • 前立腺癌 詳細はこちら

    前立腺癌

    前立腺癌の治療方法には、手術、放射線治療、ホルモン治療などがあります。一般的に遠隔転移のない前立腺がんでは、根治を目指した放射線治療を考えることができます。また手術後のPSA上昇(PSA再発)に対しても、遠隔転移がなければ同様に根治を目的とした放射線治療の適応となります。

    放射線治療には外照射(X線治療や粒子線治療)と組織内照射(小線源治療)がありますが、当院ではX線を用いた強度変調放射線治療(IMRT)を行っています。

    前立腺癌へのIMRTでは、患部へ十分な照射をしながら直腸と膀胱の線量を低減することができ、その結果血便や血尿などの副作用の頻度を少なくすることができます。(画像1)

    画像1

    またリンパ節転移のある前立腺癌では、骨盤内へ広範囲の照射を行う場合があります。その際にIMRTを用いることで、病変の性状に応じて線量の強弱をつけ、同時に照射が可能となります。(画像2)

    画像2

    治療期間は、リンパ節転移もある場合は約8週間となりますが、前立腺のみであれば約4週間と短期間の寡分割照射を積極的に進めています。また手術後のPSA再発の場合は約7週間となります。

    なお、いずれの場合も治療効果を高める目的で、放射線治療の前後にホルモン治療を一定の期間併用することがあります。当院の泌尿器科と協力して治療を行っています。

  • 頭頸部癌(咽頭癌、喉頭癌、舌癌等) 詳細はこちら

    頭頸部癌

    頭頸部癌は口や頸部に生じた癌の総称であり、部位によって口腔癌(舌癌、歯肉癌など)、咽頭癌(上・中・下)、喉頭癌(声門癌、声門上癌、声門下癌)、鼻腔・副鼻腔癌(上顎洞癌など)、唾液腺癌(耳下腺、顎下腺など)、甲状腺癌などに分類されます。

    頭頸部癌の治療方法には、手術、放射線治療、抗癌剤治療があります。顔面や頸部には見る、聞く、話す、食べる、味わう、飲み込むなどの重要な機能がありますが、放射線治療ではこれらの機能をある程度保ったまま治療を行うことができるのが特徴です。手術と異なり、見た目の変化が起こりにくいことも利点となります。

    早期の喉頭癌(声門癌)などでは、放射線治療単独で形態や機能を保ったまま根治が可能です。また進行癌では手術や抗癌剤を適宜併用しながら放射線治療を行っていきます。

    当院ではX線を用いた強度変調放射線治療(IMRT)を行っています。頭頸部癌へのIMRTでは、耳下腺や口腔内、脊髄等の線量を下げることができ、その結果唾液の減少や口の粘膜炎などが軽減され、治療中や治療後の生活の質を改善することが期待できます。(画像3)

    画像3

    治療期間は癌の種類や治療目的によってさまざまですが、約5~7週間が一般的です。当院の耳鼻咽喉科と協力して治療を行っています。

  • 乳癌
  • 肺癌
  • 直腸癌
  • 悪性リンパ腫
  • 脳腫瘍
  • 骨転移や脳転移など
  • 骨転移や脳転移 詳細はこちら

    脳転移

    肺癌、乳癌、大腸癌など、いろいろな癌で脳転移を生じることがあります。脳へは一般的な抗癌剤が届きにくく効きにくいという性質があり、脳転移への治療は放射線治療あるいは手術が中心となります。その他にも症状緩和の治療や薬物療法などを組み合わせて行われることも多くなっています。

    脳転移への放射線治療は、脳全体へ照射する「全脳照射」と、病変だけを狙ってピンポイントで照射する「定位放射線治療」とがあります。どちらを選択するかは、病変の性質や大きさ、個数、部位等を考慮して決められます。手術と組み合わせて行う場合もあります。

    脳転移への定位放射線治療は、小さな病変に対して、多方向からビームを集中させて高い放射線量を照射します。治療中に照射部の画像も取得して正確な位置を把握し、微修正を行った上で高精度な治療を行います。これらの手法により、周囲の健康な組織へのダメージを最小限に抑えつつ、患部をピンポイントで効果的に治療を行います(画像4)。1回高線量のため、照射回数も少なくすむことも利点の1つです。

    画像4

    治療期間は全脳照射の場合は2週間、定位放射線治療の場合は約1週間が一般的です。当院の主科(肺癌なら呼吸器科、乳癌なら乳腺外科など)と協力して治療を行っています。

  • 良性病変
  • ケロイド 詳細はこちら

    ケロイド

    皮膚の傷跡が赤く盛り上がり、痛みやかゆみなどを伴うことがあります。赤い隆起が長期間継続し、もともとの傷跡を越えて大きく広がってくるのがケロイドの特徴です。

    ケロイドの治療法には手術をしない保存的治療と、手術を行う外科的治療があります。保存的治療にはステロイドテープ等を用いた外用療法、他に圧迫療法や、局所注射療法、内服療法などがあります。一方、手術のみでは再発することも多く、再発予防を目的として術後に放射線治療を併用する場合があります。当院では術後の創部に、電子線を用いた放射線治療を行っています。電子線は体の深部までは届かず、浅い部分で止まる特徴があるため、周囲の臓器や正常組織をできるだけ傷つけずに治療が可能となります。(画像5,6)

    治療期間は、手術と組み合わせて約1週間です。当院の形成外科と協力して治療を行っています。

    画像5 左前胸部ケロイド 治療前

    画像6 手術と照射を行った半年後

  • 甲状腺眼症

特色

北陸で先駆けて高精度放射線治療装置を導入 Vero 4DRT

すべてのがんに高精度放射線治療を

 放射線治療は、1. がん全体に確実に放射線を当て、2. がん以外の部分には放射線をなるべく当てず、3. 患者さんの体の負担も軽くすることを目指したがんの治療法で、近年その精度はますます向上しております。当院は『Vero4DRT』、『VitalBeam』(図①)の2台の装置を導入して高精度放射線治療を実施しています。

『Vero4DRT』は、脳腫瘍や肺癌の定位照射(SRT/SBRT、ピンポイント照射)、前立腺癌の強度変調放射線治療(IMRT)などが得意な上、呼吸によって移動する肺癌や肝癌を追いかけながら放射線を当てる動体追尾照射が可能で(図②)、がんの周囲が放射線で傷付くのを軽減することができます。

『VitalBeam』は広い範囲の病変にまとめて正確に放射線を当てることが得意で、転移のあるがんでもVMAT(回転型IMRT)と呼ばれる回転照射システムを使って(図③)、周囲の臓器への放射線を大幅に減らしながら、全ての病変へより強力な放射線治療を安全に実施できます。

  

左乳癌への放射線治療 深吸気息止め法(DIBH法)

当院では対象となる乳癌について乳房温存療法を行っています。乳房温存療法では乳癌手術後に、温存された乳房全体に放射線を照射する必要があります。しかし、乳房の近くには肺や心臓があり、これらの臓器にも放射線が照射されてしまいます。特に左乳房は心臓との距離が近く、心臓の一部に放射線が多く照射されます。

心臓に照射された放射線量は、放射線治療数年後以降の心血管疾患発症リスク(狭心症や心筋梗塞など)に関連するとの報告もあり[1, 2]、乳癌診療ガイドラインでも心臓への照射線量低減の配慮が推奨されています[3]。そこで当院では心臓に照射される線量を減らし、将来の心血管疾患発症リスクを低減するため、左乳癌の放射線療法において深吸気息止め法(DIBH法)を行っています。

心臓に優しい放射線療法

通常、乳癌の放射線療法では呼吸をした状態(自由呼吸)で照射しますが、深吸気息止め法では、大きく息を吸って止めた状態(深吸気息止め)で照射します。こうすることで乳房と心臓の距離が離れ、放射線が照射される心臓の体積を減らすことが可能になります。(図1)自由呼吸で放射線治療をした場合、心臓の体積の約20%に放射線が当たる患者さんが、深吸気息止め法を実施することによりその体積が1%未満になったという報告もあります[4]。

乳癌手術後の放射線療法は約1か月間、月~金の毎日行います。毎回の照射で、深吸気息止めを複数回実施する必要があります。これらの息止めを毎回同じ状態で行うこと(再現性)が非常に重要であるため、治療を受けられる患者さんのご協力も必要不可欠となります。なお当院では、安全に精度よく深吸気息止め法を実施するため、息止め再現性が±3mm以内であることを、照射前はもちろんのこと照射中もモニタリングしながら照射を実施しています。

図1 左乳房温存手術後の放射線治療において照射される心臓体積の比較 深吸気息止め(左)と自由呼吸(右)

  1. Darby SC, Ewertz M, McGale P, et al. Risk of Ischemic Heart Disease in Women after Radiotherapy for Breast Cancer. N Engl J Med. 2013; 368(11): 987-998.
  2. van den Bogaard VAB, Ta BDP, van der Schaaf A, et al. Validation and Modification of a Prediction Model for Acute Cardiac Events in Patients With Breast Cancer Treated With Radiotherapy Based on Three-Dimensional Dose Distributions to Cardiac Substructures. J Clin Oncol. 2017; 35(11): 1171-1178.
  3. 日本乳癌学会編集,乳癌診療ガイドライン2022年版,金原出版
  4. Korreman SS, Pedersen AN, Nottrup TJ, et al. Breathing adapted radiotherapy for breast cancer:Comparison of free breathing gating with the breath-hold technique. Radiother Oncol. 2005; 76: 311-318.

放射線治療中のケア

放射線治療中やその後に、放射線を当てた部分を中心とする炎症(やけど)に伴う症状や、全身の倦怠感(体がだるい感じ)などの副作用が生じることがあります。多くの場合、副作用は放射線治療が終了すれば数週間~数ヶ月で治っていきますので、放射線治療中に症状が出ても治療をなるべく中断しないことが大切です。そのために放射線治療専門医や専従看護師が症状の内容や程度に合わせて適切なケアや処置を行います。放射線治療についてご不明な点やご不安がございましたら、スタッフにいつでもお声掛けください。

医師紹介

【科長】 副部長

楢林 正流 (ならばやし まさる)

免許取得
平成15年
専門分野
・高精度放射線治療
・放射線治療一般
資格
・日本医学放射線学会および日本放射線腫瘍学会放射線治療専門医
・日本専門医機構放射線科専門医
・日本医学放射線学会研修指導者
・日本がん治療認定医機構がん治療認定医

医監

豊岡 重剛 (とよおか しげたけ)

免許取得
昭和47年
資格
・日本内科学会認定医
・日本内科学会総合内科専門医
・日本医師会認定産業医
・日本輸血・細胞治療学会認定医
・日本臨床検査医学会臨床検査管理医
写真はありません

非常勤医師

相澤 理人 (あいざわ りひと)

免許取得
平成22年
写真はありません

非常勤医師

村上 高志 (むらかみ たかし)

免許取得
平成30年

外来担当医表

 
1診 楢林 楢林 楢林 楢林 楢林
2診

豊岡(紹介)

村上/豊岡(紹介) 豊岡(紹介) 相澤/豊岡(紹介) 豊岡(紹介)

備考:放射線治療外来(完全予約制)