最近の乳がん治療のいろいろ
乳がんの現状
(福井県がん登録 第36報より作図)
日本でも女性の9人に1人がかかるといわれ、女性が最も多くかかるがんといわれています。福井県でも同じ傾向があり、特に40歳を過ぎると急激に増加し、高齢になってもそれほど減らないのです(図1)。
しかし、乳がんの予防は難しいため、現在は乳がん検診で早期に発見する努力が重要です。また、皆さんが日ごろから自分の乳房を意識して生活することで、より早く変化に気づくことができる習慣「ブレスト・アウェアネス」をお勧めしています(表1、図2)。
乳がんの治療はタイプで異なる
乳がんと診断されると、病気の進行度(ステージ)を検査で調べるとともに、ほとんどの場合は手術を中心とした治療プランを提案します。しかし、乳がんの治療は手術だけで済む人は少なく、薬の点滴や服用、放射線など、さまざまな治療を組み合わせて行うことで、治る確率を高くする治療を受けてもらっています。
以前は、まず手術を行い、その後に転移や再発予防のために薬を飲む程度でした。しかし、最近では多くの薬が開発され、治療効果が得られるようになったため、治療方針が複雑になってきました。そのため、薬の効果に応じたタイプ分類が必要になります。具体的には、女性ホルモンとHER2タンパク*1の影響を受けるタイプかどうかによって、4つのタイプに分け、その患者さんのがんに合った治療を選択するという考え方です。
これに病気の進行度(ステージ)を組み合わせて治療プランを決定し、その結果、手術前に薬での治療を行うこともあります。手術後も、手術で取った病変の検査結果で治療プランの再検討を行います。女性ホルモン陽性でHER2タンパク陰性の場合、OncotypeDXといった遺伝子検査が適応となることもあり、それらの情報を含めて検討することをお勧めしています。
*1 HER2(ヒト上皮成長因子受容体2):細胞表面に存在するタンパク質で、細胞の成長や分裂を調整する役割を持つ。特に乳がんや胃がんなどのがん細胞で過剰に発現することがあり、がんの進行を促進する要因となる
手術もさまざま
手術は大きく分けて、乳房をすべて取る「乳房全切除術」と一部だけを取る「乳房部分切除術」があります。
もともとのがんの部分を摘出することが目的で、必ずしも患者さんが選択できるとは限りません。しかし、最近では部分切除術の選択が以前よりも減ってきました。これは、「乳房再建術」という治療法が保険適用になったことと関係しています。
乳がんが治ることだけでなく、治った後のボディイメージにまで配慮するようになったのです。
当院では、患者さんの希望に応じて、形成外科とともに対応しています。全切除術をした乳房の再建には、自分の体の一部を利用する「自家移植再建」と、人工物を利用する「シリコンインプラント」の方法があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、患者さんの希望を聞きながら相談のうえ決定しています。
腋窩(えきか)リンパ節*2に対しては、転移がある場合は腋窩リンパ節をすべて取る「腋窩郭清(かくせい)」を行い、転移がはっきりしない場合は、転移の有無を確認する「センチネルリンパ節生検」という手技を行っています。
*2 腋窩リンパ節:わきの下のリンパ節のこと
遺伝性乳がん卵巣がん症候群: HBOCとは
若くして乳がんになった人や、家族や親せきに乳がんや卵巣がんにかかった人がいる場合、遺伝性の素因がある可能性があります。乳がんの5~10%くらいが遺伝する乳がんといわれ、その中の約半数の人が遺伝性乳がん卵巣がん症候群:HBOC(Hereditary Breast and Ovarian Cancer)と呼ばれる遺伝子異常のある人たちになります。
HBOCはBRCA1/BRCA2という遺伝子の先天異常によりがんになりやすい人たちで、正常な遺伝子の人たちと比べ、70歳までにがんを発症する確率が高いことがわかっています(図3)。
(「遺伝性乳がん卵巣がんをご理解いただくために ver.2022 2」より引用)
近年、この遺伝子異常に対する乳がんや卵巣がんの治療薬が開発されたほか、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんがHBOCのため予防手術を受けたことを公表したことで、HBOCに対する認知が広まりました。その結果、遺伝子検査を保険診療で受けられる患者さんが増えました(表2)。
検査の結果HBOCと診断された患者さんは、これ以上乳がんや卵巣がんにならないよう、保険診療で反対の乳房や卵巣を予防的に摘出することが可能になりました。詳細については、主治医に相談してください。



