周術期(手術前後)の口腔機能管理の重要性とは

周術期(手術前後)の口腔機能管理の重要性とは

口とはどのような器官でしょうか?

口は食物の入り口、コミュニケーションのための声の発生源、言葉を使わず相手に自分の感情を伝えるための顔の表情を作るパーツの1つなど、さまざまな機能を担っています。

特に食物の入り口、消化器官の入り口であることは、生物である人間が外部から食物を取り入れる最初の入り口であり、生物として生命を永らえるために重要です。

外部から食物を取り入れ、小さくして分解し、吸収できる状態にすることを消化といい、これを吸収して生命を維持させます。食物をまず自分の口から取り込める大きさに前歯でかみちぎり、それを臼歯でかみ砕き小さくします。消化液の1種類である唾液と混ぜ合わされることで食塊(しょっかい)を形成し、食道から胃に問題なく送り込まれます。そして気管に入らないように食道に流し込まれます。これらの一連の行動を無意識に行っている機関が口です。 

また、口には食物摂取時に食物以外の細菌も一緒に消化器官に入り込みますが、これに対処する仕組みをもっています。

口は消化管の最初の入り口であり、食物から栄養を吸収するため、その表面は非常に薄く、その下の血液が透けて見えるほどで、皮膚のように白くはありません。つまり薄いため細菌が体内に入りやすい部位でもあります。

このため口は非常に血流が良く、細胞は非常に活発に細胞分裂を行い、細菌が体内に侵入する前に次々と新しい細胞によって、その下層から置き換わり、細菌に接着された古い表面の細胞ごと食道を通って食物と一緒に胃に流し込まれます。胃酸によって死滅し、分解吸収されます。

さらに、食物を取るときにできた傷も、すぐに新しい細胞によって埋められ、手足の傷に比べ非常に早く修復され治癒します。唾液の中には、この成長を促す成長因子も含まれています。

長寿で生じる口腔内のトラブル

歯(歯牙(しが))はうろこから進化の過程でできたもので、人間の場合は乳歯と永久歯の2回しか生えてきません。哺乳類では、歯牙は顎骨(がくこつ)から萌出(ほうしゅつ)(歯がはえること)し、顎骨と強固に結合することで、顎(あご)の力をてこの原理で大きくして食物に伝え、少し硬い食物もかみ砕きます。

道具や文化を持たない生物としての人間は、本来30年程度生きる生物としてできていました。10代で乳歯から永久歯に生え変わり、その後、寿命を迎えるころには歯牙がなくなると考えられていました。しかし現代では、人は80~90歳まで生きており、それに伴いさまざまな問題が生じています。

特に歯牙に細菌が感染すると、細菌は顎骨内に侵入し、血流を通して全身に広がっていきます。このため、最近では口腔内(こうくうない)の細菌数をコントロールする「口腔ケア」という概念が出てきました。

食事で細菌増加の抑制、 消化・吸収を促進

周術期口腔機能管理(手術前後に口腔ケアをすること)は、2012年から保険適用となり、さまざまな治療において、口腔内を清潔に保ち、細菌を減らしておくと、多くの効果が得られることがわかってきました。

以前は「食事をしなければ口腔内は汚れない」と思われていましたが、実際には食事をしなくても口腔内の細菌は、剥離(はくり)した細胞や唾液を栄養にして増殖し続けており、一定時間ごとに取り除かなければならないことがわかってきました。

健康時は食事をすることで、これらの細菌を剥離細胞や唾液ごと胃に送り、食物と一緒に消化・吸収されます。吸収しきれないものは便として排泄されることも明らかになりました。

口腔内は濡れていることが正常な状態であり、乾燥すると唾液による抗菌作用が低下し、細菌数が増加します。さらに、唾液内のたんぱく質が細菌の増加を抑えることがわかってきており、食事をすることで唾液の分泌を促し、細菌の増加の抑制や食道や胃の動きを活発化させ、消化・吸収を促進しています。

また、話すことは口腔内の運動の多くに関係しています。うまく話すことができる人は、うまく口腔内を動かせる人であり、うまく食べられる人でもあります。

口腔ケアで早期治癒を

口腔ケア(口腔内の清掃状態を良くする)、スケーリング(歯石除去)、動揺歯や根尖病巣歯(こんせんびょうそうし)の抜歯などにより、口腔内の細菌数を減らすことで、術後肺炎の抑制や術後の炎症が早期に低下するなどの結果が得られています。また、入院期間の短縮(図)などの成果も確認されており、医療経済的にも、患者さんにとっても、非常に有効であることが示されています。

図 口腔機能の管理による在院日数に対する削減効果 *n=患者数
(厚生労働省「中央社会保険医療協議会総会(第259回)専門委員提出資料」より作図)

当初は胸部、上部消化管手術、耳鼻科領域等の手術のみの適応でしたが、その後、整形外科の人工骨頭置換術(じんこうこっとうちかんじゅつ)などの人工物を体内に入れる手術や、心臓外科手術、臓器移植、造血幹細胞移植、脳卒中を含む脳外科の手術も適応範囲に含まれるようになりました。また、手術だけでなく、化学療法や放射線療法、さらに緩和治療にも範囲が拡大しています。

入院患者さんに対し、歯科が積極的に口腔ケアや口腔内の環境維持に関与することで、口腔衛生状態を管理維持し、口内炎や歯周炎、顎骨壊死(えし)などを早期に発見し、対処できます。これにより、口腔の不快な状態が改善され、主科の治療がスムーズに進みます。また、口腔内の不快感を取り除くことで、栄養状態も改善され、早期に治癒や入院期間の短縮につなげられると考えています。

さらに、継続的な口腔内管理により口腔機能低下症を早期に発見し、口腔内のリハビリを促すことで、摂食嚥下障害(せっしょくえんげしょうがい)に進行する前に改善が図れます。口腔機能低下の状態を回復期病院*1へ紹介できればと考えています。

*1 回復期病院:急性期病院での治療を終えた患者さんが、機能回復や社会復帰を目指すために入院する施設

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