腰部脊柱管狭窄症——患者さん一人ひとりに適した手術方法

腰部脊柱管狭窄症
患者さん一人ひとりに適した手術方法

各患者さんにあった手術方法

現在、わが国では脊椎(せきつい)疾患の患者さんは約1,300万人と推定されています。特に高齢社会を迎え、最も一般的な脊椎の病気が腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)です。加齢により靱帯(じんたい)(スジ)が分厚くなったり、骨の変形が起こったりして神経の通り道である脊柱管と呼ばれる部位が狭くなり、歩行障害や下肢(かし)のしびれ、痛みが出る病気です。

治療法としては保存療法と手術療法があります。保存療法には薬物治療、リハビリ治療、ブロック治療などがあります。しかし、保存療法を行っても痛みやしびれがひどくて日常生活に支障をきたす場合や、足首を自分の力で動かせなくなってくるなどの筋力低下、あるいは尿意・便意を感じなくなってくるなどの膀胱直腸障害が出てくる場合は、手術療法を行います。

手術療法は大きく分けて2通りあり、背骨自体が安定している場合は神経の圧迫のみを取り除く「後方除圧術(こうほうじょあつじゅつ)」を行います。一方、背骨が歪んでいたり、グラグラしているなどの不安定性がある場合は神経の圧迫を取り除くことに加えて、金属を使用した「固定術」を行います。

例えば脊柱管狭窄症で、骨と骨の間にずれや不安定性(グラグラする)が生じた場合は骨と骨を固定する固定術の必要性が出てくることとなり、骨と骨の間に新しい骨を移植する必要が生じます。この手術方法は、体のお腹(なか)側から手術するか、あるいは背中側からするかで、前方固定、あるいは後方固定術という手術名が変わります。

図1 主な腰部脊柱管狭窄症

脊柱管狭窄症に対する手術

脊柱管狭窄症に対する手術としては、1.腰椎後方除圧術(後方から神経を圧迫している骨・靱帯・椎間板などを取り除く)、2.腰椎後方除圧固定術(神経の圧迫を取るのに加えて不安定な骨を金属のネジ・棒などを使用して固定して安定化する)という2つの手技があります。

そして、手術のアプローチには、1.後方(背中側からの手術)、2.前方(お腹側からの手術)、3.前後方同時の3つの方法があります。

1.腰椎後方除圧術

当院では棘突起縦割法(きょくとっきたてわりほう)という術式を行っています。これは背骨の後方部位の骨にくっついている筋肉を剥(は)がさずに手術するので筋肉へのダメージが抑えられ、さらに筋肉に分布する細かい神経や血管のダメージも少なくなり、従来の骨から筋肉を剥がす方法と比べて術後の腰痛が軽度です。

2. 腰椎後方除圧固定術

以前より、腰椎を固定する場合に行われている術式です。この方法は、体の背中側から手術を行い、神経の圧迫を取ります。そして、その後、不安定な骨同士を金属で補強してぐらつきを防ぎます。この手術方法は、現在でも広く行われる一般的な術式で成績も安定していますが、術中出血がある程度見込まれること、腰の後方の筋肉、骨を剥がして切除するため腰の後方支持組織が弱くなること、また、神経を痛めてしまうリスクがあることなどが欠点としてあげられます。

低侵襲脊椎手術とは

そこで、近年わが国で普及しつつある術式としては腰椎前方後方固定術(図2)があり、これは低侵襲(ていしんしゅう)脊椎手術と呼ばれるものです。体のお腹側と背中側の両方からの手術を行います。そして、不安定な骨と骨をぐらつかないように金属で補強します。

図2 腰椎前方後方固定術
(日本脊椎脊髄病学会ホームページ https://ssl.jssr.gr.jp/medical/sick/treat.htmlより引用)

この手術は、両方から手術を行うので大きな手術になると思われがちですが、実際には、背中側からだけで行う手術方法と比べて、出血量の減少、直接神経を操作しないため神経を痛めたりするリスクが少ないこと、後方の筋肉、骨を剥がしたり・切除しないため後方支持組織が保たれることの利点があります。またこの手術方法では、固定する際に神経の圧迫をこれまでの方法よりも、さらに取ることができるという利点があります。

それゆえ、この前方後方固定術は非常に優れた術式で、従来の手術法ではなかなか困難な患者さんにおいても出血、手術時間、術後疼痛(とうつう)(痛み)を減少させる手術を行うことが可能となりました。

しかしながら、この手術法を行う際に、臓器を守る腹膜や大動脈などの主要臓器が存在しているので、これまでの手術法に比べて重大な合併症が報告されていることも事実です。そのため、本手術はどこの病院に行っても受けられるものではありませんが、当院ではこの術式が適していると考えられる患者さんに対して積極的に施行し、良好な治療成績を得ています。また、どの術式においても術後早期にリハビリを開始し、ほとんどの患者さんは2週間程度で自宅退院となります。

患者さんから、腰の手術というと「術後に歩けなくなるんじゃないのか」「背骨にネジをいれるのは怖い」「長期入院が必要なのではないか」などの不安の声を耳にすることがあります。しかし、最も新しい術式である前後方同時固定術(体のお腹側と背中側両方から手術する方法)も日本に導入されて10年が経過しており、現在、普及している手術方法はどの術式も確立されており、治療成績も安定しています。

どの術式を選択するかは、過去の論文などによりおおまかな基準がありますが、実際は患者さんごとに病態や生活様式、希望、画像なども含めて総合的に判断していくことになります。

当院では、それぞれの患者さんにとって最適な治療法を患者さんと相談しながら選択し、最良な治療を提供することを心がけています。日常生活で腰痛、下肢の痛み・しびれによる歩行障害でお困りの方は、専門医を受診することをお勧めします。

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