当院での乳房再建の最前線

当院での乳房再建の最前線

なぜ乳房再建をするのか?

写真 ミロのヴィーナス

ルーブル美術館にあるミロのヴィーナスを鑑賞すると、両腕が存在しないことが美しさにさほど影響を与えないということがわかります。しかし、この像の乳房が削られて存在しなかった場合、この像の芸術的価値は不変だったのか? ルーブル美術館の同じ場所で展示されていたのか? もっと目立たない場所に移動していたのか? そもそもルーブル美術館に保管されたのか? どれかはわからないが、今よりは芸術的価値が下がっているように思います。うまく言葉にはできませんが、乳房の存在は女性にとって重要だと思われ、それは術式の選択にも現れています。

もともと乳房全切除術を行っていましたが、1990年前後から急速に乳房温存手術(部分切除術)の件数が増加し、2004年には全切除術の件数を追い抜きました。さらに、2006年に自家組織再建、2014年にはインプラントによる再建が保険適用となり、全切除+再建が可能になりました。その結果、2015年には全切除術(胸筋温存乳房切除術)の件数が乳房温存手術の件数を追い抜いています(図1)。

図1 乳がん術式の推移と手術方法の関係

当院における乳房再建の方法

保険適用の再建方法は大きく2種類に分類されます。インプラントによる再建と、自分の組織による再建です。さらに自分の組織による再建は、広背筋皮弁(こうはいきんひべん)と腹部皮弁の2種類に分けられます。

これらの方法で膨らみを再建した後に、希望があれば乳頭再建(保険適用)やタトゥー(自費診療)を行うことが可能です。

1.インプラントによる再建

皮膚の一部を含めて乳腺全摘を行うと、皮膚に余裕がなく分厚いインプラントは入らなくなります。そのため、薄いエキスパンダーを大胸筋の下に挿入し、皮膚を閉じます。1週間ごとに60~100mLずつ生理食塩水を注入して皮膚を適切な大きさまで膨らました後、組織がなじむまで半年待機してからインプラントに入れ替えます。つまり手術が2回必要となります。さらにインプラントが劣化するため、1年に1回はインプラントのチェックを行い、ひび割れなどがあれば入れ替える必要があります。

まれではありますが、インプラントが原因で悪性のリンパ腫(しゅ)を生じることがあり、国内では5例報告されています。そのほかにも、感染に弱い、体重の増減を反映しない、健側*1が下垂すると左右差が目立つなどの欠点はありますが、腹部や背部など他の部位に傷ができないのが最大の利点です(図2)。

*1 健側:半身に麻痺(まひ)や障害を負っている場合の、障害がない側の身体を指す

図2 エキスパンダー、インプラント

2.広背筋皮弁による再建

広背筋は腋窩(えきか)(わきの下)から血管が流入しており、その血管がつながったまま背部の皮膚・脂肪・広背筋を挙上し、振り子のように胸に移動させて胸を再建します。広背筋が欠損しますが日常生活に支障はありません。

利点は血管がつながったまま皮弁を動かすため血管吻合(ふんごう)(つなぐこと)が不要であること、欠点は背部はボリュームが少ないため大きい胸の再建は難しいことと、背部に大きな傷が残るということです(図3)。

図3 広背筋皮弁

3.腹部皮弁

腹直筋(一般的に腹筋といわれる筋肉)には、上からは上腹壁動脈、下からは下腹壁動脈という太い血管が流入しています(図4)。当院では、なるべく腹直筋を残すようにし、皮膚・脂肪・下腹壁動脈をひとまとめにして切り離し、胸部の内胸動脈と血管吻合をして胸の再建をしています(図5)。

図4 腹直筋と血管
図5 腹直筋皮弁と腹部穿通枝皮弁(DIEP flap)

利点は大きい胸の再建が可能であり、お腹(なか)がすっきりして胸ができることです。欠点は腹部に大きな横の傷ができることや、血管吻合した部分に血栓ができ再吻合しても閉塞(へいそく)した場合、移動させた組織がすべてダメになるということです(図6)。

図6 腹部穿通枝皮弁

以上の再建をした後に、希望があれば乳頭再建やタトゥーを行うことが可能です。乳頭再建は、スターフラップという局所皮弁をすることがほとんどですが、希望があれば健側の乳頭を半切して移植します。傷が落ち着いたところでタトゥーで乳輪乳頭に着色します。必要があれば、健側挙上や脂肪注入を追加することもあります。

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