お知らせ令和6年9月1日市民公開講座「選べる未来〜乳がん治療のいま〜」開催報告を掲載しました
福井赤十字病院の市民公開講座「選べる未来~乳がん治療のいま~」が9月1日、福井新聞社・風の森ホールで開かれました。乳腺外科、形成外科の双方の経験豊富な医師が在籍する同院における乳がん治療の選択肢、また、治療後の気持ちにも大きく影響する見た目(外見)について選択できる乳房再建の方法について、約110名の参加者は広く理解を深めました。
■内容
知って備える乳がん治療 外科 田中 文恵 部長
一人で悩まず、最適な選択を共に
2019年のデータによると、40代から70代の福井県女性のがんで最も多いのは乳がんです。罹患率は40代から大きく増え、60歳を超えてもなお多くの女性が罹患しています。全ての年代の女性が乳がんになる可能性があることをまずはご理解ください。
治療には主に手術、放射線治療、手術前後の薬物療法があり、診療ガイドラインに基づいて病気の進行度とサブタイプという病気の分類によって最適な治療法を選択します。手術の種類には「乳房全切除術」「乳房部分切除術」「乳頭乳輪温存乳腺全切除術」「腋窩(えきか)リンパ(りんぱ)節(せつ)廓清(かくせい)」「センチネルリンパ節生検」があります。サブタイプは「女性ホルモンの感受性」の有無、がん細胞の表面にある「HER2タンパクの存在」の有無によって4つに分類され、ホルモン療法剤、抗HER2薬、抗がん剤、免疫チェックポイント阻害剤など薬物療法の種類を決めるために用いられます。これらを基本に、年齢や持病、家族の協力、費用などの問題を考慮して担当医と相談しながら、一番良いと思われる治療方針を立てることになります。一人ひとり状況が異なるため、自分に合った治療を選択して受ける必要があります。
またHBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)という、遺伝子の異常により乳がんや卵巣がん、前立腺がん、膵臓がんになりやすい人がいることが最新の研究で分かってきました。通常より乳がんの罹患率が極めて高いことから、予防切除や再建手術が保険適用されています。「45歳以下で乳がんを発症した」「近親者に乳がん・卵巣がん・膵臓がん患者がいる」など、所定の条件を満たしている人はBRCA遺伝子検査が保険適用になります。
「治療法を選べる」ということは、自分の未来も選べるということです。ただし、複数の選択肢がある中で、患者さんご自身が納得のいく治療法を選ぶことには大きな負担が伴います。それは、患者さんご本人だけでなく、一緒に暮らすご家族や親族、友人や職場の方々にとっても非常に大変なことでしょう。私たちもチームの一員となり、力を合わせて乗り越えていくお手伝いをさせていただきます。
乳房再建 〜『ある』ままでいられる選択肢〜 形成外科 岡本 仁 部長
考えてみよう、乳房再建手術
日本における乳がんの手術は、乳房全切除術が約半数を占めています。しかし、乳房全切除後の乳房再建率はアメリカの50%以上に対し、日本は10%台前半と非常に低くなっています。乳房再建について考えてみたことはありますか?
再建方法は、人工物であるシリコンインプラントを使用する方法と、広背筋皮弁もしくは腹部皮弁という自分の組織を使用する方法の大きく2種類があります。シリコンインプラントを使用する場合は、腹部や背部に傷がつかず、手術がシンプルで短時間で済むというメリットがある一方で、2回の手術が必要、破損、それに伴う入替え手術が必要、などのデメリットがあります。片方を手術していない場合、下垂や体型の変化で両胸のバランスが取りにくくなるという難点もあります。広背筋皮弁を使用する方法では、血管がつながったまま広背筋と背中の皮膚と脂肪を乳房の位置へ移動させ縫い合わせます。血管を切り離す必要はありませんが、背部は脂肪が少ないためボリュームが足りず、腰の脂肪を付加したり脂肪注入の必要があるケースもあります。腹部皮弁を使用する場合は、当院では腹直筋を残して、下腹部の皮膚・脂肪・血管をひと塊にして切り離して乳房に移動させる方法を行っています。大きな組織の再建が可能で、腹部がすっきりして乳房が再建できるというメリットがありますが、一度血管を切り離してから再びつなぎ合わせるため血管閉塞のリスクがあります。他にも注意点がいろいろありますので、担当医と相談の上それぞれのメリット、デメリットをしっかり理解して、納得のいく方法を選んでください。
再建手術後は乳頭形成を行い、乳輪乳頭部分にはタトゥを施して本物らしく仕上げます。より良い形にするための脂肪注入や、手術していない方の乳房を吊り上げて両胸のバランスをとるケースもあります。タイミングは仕事の都合などの事情を考慮して決めましょう。大切な胸を「ある」ままでいられる、乳房再建。一つの選択肢として、覚えておいていただけたらと思います。
公開講座当日の様子
市民公開講座では司会を務めたフリーアナウンサー佐橋嬉香氏による、「遺伝性がん当事者からの手紙(※)」の朗読が行われました。遺伝性がんの患者さん本人やそのご家族など、当事者から社会に向けた思いを綴った手紙です。参加者は、当事者の実体験に基づいて紡ぎ出された数々の言葉に真剣な表情で耳を傾け、がんと向き合う方々の心の声に深い理解を寄せました。
(※特定非営利活動法人クラヴィスアルクスによる社会啓発事業)
令和6年10月5日付 福井新聞掲載記事
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福井赤十字病院 事務部 病院経営課 TEL 0776-36-3630(代表)