お知らせ令和7年3月9日市民公開講座「変形性関節症 〜そのまえにできること、なったあとに選べること〜」開催報告を掲載しました
福井赤十字病院の公開講座「変形性関節症〜そのまえにできること、なったあとに選べること〜」が3月9日、福井市の繊協ビルで開かれました。約220名の参加者が人工関節手術を含む治療の選択肢や最新のリハビリの流れ、普段から心掛けておきたい運動法について理解を深めました。
■内容
あなたにぴったりの治療は?
〜人工関節手術とそのほかの方法〜
整形外科 石川 正洋 部長

整形外科 石川 正洋 部長
手術という決断の前にできること
膝や股関節に痛みを抱える高齢者は非常に多く、その最大の原因は変形性関節症です。関節のクッションの役割をしている関節軟骨や半月板がすり減り、固い骨が露出してしまうことで骨の変形や痛みが生じる疾患です。老化や肥満、運動不足や運動のしすぎによって症状が進行し、例えば膝関節なら、初期には動作の始めに痛みを感じる程度だったものが、次第に歩行や階段の上り下りでも感じるようになり、末期には膝が強く変形し、安静にしていても痛みを感じるようになります。
症状が進行すると最終的には手術になりますが、痛みを軽減させる手段として、痛み止めや湿布、膝へのヒアルロン酸注射といった選択肢も存在します。また、近年注目されている新しい治療法として、自身の血液中の血小板を濃縮して利用するPRP療法と呼ばれる再生医療もあります。副作用が少なく、抗炎症作用が期待されています。
他にも普段の生活の中でもできることはあります。その一つが、膝に軽い負荷をかけてのウォーキング。65歳以上の女性は6000歩、男性は7000歩を目安に、8〜12週継続すると効果的です。股関節症の場合も、寝たきりになると一気に筋力が低下してしまうので、無理のない範囲でできるだけ歩くよう心掛けましょう。変形性関節症は全ての人に起こる老化の一つ。上手に付き合っていくことが大切です。
進化を続ける人工関節手術
これまで、人工関節は長持ちしないという理由から人工関節手術は人生の最後に行うものと考えられていましたが、近年は変わりつつあります。人工関節の耐久性が良くなったことで、膝関節、股関節ともに術後20年以上は問題なく生活できるようになり、ほとんどの人がその後の再手術も不要になりました。また、「健康寿命」という考え方が広まり、関節の痛みを取り除いて健康に暮らせる期間を少しでも伸ばそうと、60代70代といった早期での手術も増えてきています。一方で、寝たきりを防ぐため超高齢になってからの手術も増えました。年齢を問わず、痛みで外出が億劫になった、自分で歩けなくなったという方は少しでも元気なうちに手術することをおすすめします。
股関節の痛みに対しては、傷んでしまった臼蓋や大腿骨の一部を削って人工関節に置き換える、人工股関節手術が最良だと考えます。20世紀で最も成功した手術の一つともいわれており、確実に痛みを減らすことができます。膝関節の痛みに対しては、骨切り術、人工関節部分置換術、人工関節全置換術の3つの選択肢がありますので、関節の損傷の程度に合わせてご自身に合った治療法を選んでください。まず、日本で盛んに行われている骨切り術。日本人の膝は体重が乗る内側から傷んでくる傾向があるため、骨を切って向きを変えることで外側に体重が乗るようにする手術です。自分の骨のみで手術でき、術後は激しい運動も可能ですが、術後リハビリに時間がかかり、将来的に再手術の可能性もあるという懸念点があります。傷んだ関節のみを削り、部分的に人工関節を入れる人工関節部分置換術は、傷が小さく術後のリハビリが楽という利点がありますが、長持ち度はあまりよくありません。膝関節全体に人工関節を入れる人工関節全置換術は、どんなに骨が変形していても手術可能で一度きりの手術で済みますが、術後の痛みが強く、膝の曲がり具合はリハビリ次第となります。どの治療にもメリットデメリットがありますので、主治医の先生に自分の希望をしっかり伝え、相談しながら決めましょう。
当院では、麻酔科、リハビリテーション科、整形外科などの多職種連携によるチーム医療で、手術後の状態を共有しながら組織的に治療することを目的に、関節外科センターを立ち上げました。当院の人工関節手術は、筋肉と関節靭帯を温存した手術で、必要に応じて両側同日に行います。抜糸の必要がない術式を採用し、翌日からシャワーも可能です。多職種連携によって、術後早期からのリハビリが可能になり、それによって早期回復も実現できるようになりました。また、膝関節治療においては、近年は個人個人の膝の形に合わせてカスタマイズした手術が必要という考え方に変わってきており、現在、我々も力を入れて取り組んでいます。長寿の時代だからこそ、関節の痛みを取り除いてまだまだ元気に過ごしていただきたい。その思いを胸に、日本で一番良い人工関節手術を目指し、邁進していきます。
人工関節手術とリハビリ
〜はやく治すリハビリの新常識〜
リハビリテーション科 井元 信彦 理学療法士

リハビリテーション科 井元 信彦 理学療法士
積極的に動いて早期回復へ
関節の痛みのせいで、日々の活動意欲が落ちてしまうことはありませんか?活動量が低下すると筋力や体力も低下して体重の増加が起こり、関節への負担が増え、より関節の痛みが増強するという悪循環に陥ってしまいます。そこで重要なのが適度な運動。筋力がついて体重が減少すれば、関節の負担や痛みも軽減します。その結果、痛みに悩まされることが減ってやりたいことができるようになり、生活の満足度が上がる良い循環に変わっていくでしょう。
近年、人工関節手術後のリハビリの現場は大きく変わってきています。硬膜外麻酔や痛み止めを使用して痛みをコントロールしながら手術後も積極的に動くことが、合併症を予防し、早期回復につながると分かってきました。私が働き始めた20年以上前は、術後のリハビリ開始は1週間経過後で長期入院が当たり前でしたが、現在は手術翌日から足の運動や歩行練習を開始し、早期回復・早期退院が可能です。手術前日に入院して関節の動きや筋力、歩行能力などを検査し、手術翌日からリハビリという流れになります。当院の手術は抜糸がないため早期からシャワーも可能です。前向きな気持ちで積極的にリハビリに取り組み、早く元気な体を取り戻しましょう。
令和7年4月12日付 福井新聞掲載記事
お問合せ窓口
福井赤十字病院 事務部 病院経営課 TEL 0776-36-3630(代表)