お知らせ

お知らせ令和7年9月7日市民公開講座「生きる力を考える 〜がんと向きあういのちの舞台〜」開催報告を掲載しました

 

福井赤十字病院の市民公開講座が、9月7日、福井市のフェニックス・プラザで開催されました。 約340名が参加し、演出家・宮本亞門氏の特別講演と、2人の医師による先進的手術についての 講演を聴講し、さらにパネルディスカッションで、がんとの向き合い方について理解を深めました。

内容

亞門のがん日記~前立腺がんを摘出して~

希望を支える医療を福井で~ロボット支援手術・腹腔鏡手術で挑む大腸がん~

小さなキズで大きな安心を~肺がん手術の進化~

パネルディスカッション「生きる力を考える」

亞門のがん日記 ~前立腺がんを摘出して~
演出家 宮本亞門 氏 

勇気をくれた母の言葉      

 2019年、あるテレビ番組の企画で人間ドッ クを受け、その後の精密検査で前立腺がんと診断されました。その日からステージ診断を聞 くまでの1週間は“魔の不安定期間”。仕事でもプライベートでもあえて怒濤の時間を過ごし、がんのことを忘れようとしましたが、1人になると不安が押し寄せてきます。そんな中で記者会見が行われ、明るくインタビューに応じる僕に1人の記者が言いました。「亞門さん、勇気ありますね」って。僕は臆病な人間で、変わったのは母のおかげです。踊りや芝居が好きな母は、僕を歌舞伎座などに連れていき、詳しい解説までしてくれました。しかし、命に関わる病気を抱え、「1分でも1秒でも長く生きたい。生きてるってすごいんだもん」が口癖でもありました。その後僕は、さまざまな困難や危機を乗り越える中で母の口癖の意味がわかるようになり、それが記者会見での対応につながったのです。

「人生2度なし」を胸に生きる

 診断結果はステージ2で転移なし。セカンドオピニオンも受けましたが、最初に診ていただいた先生の「一緒に頑張っていきましょう」の言葉に力づけられ、全摘出の手術をお願いしました。先々の仕事や生活を考え、手術支援ロボット「ダビンチ」による手術に決めたのですが、術後約3カ月で傷跡が消え、これはすごいなと驚きました。入院中は気持ちがなえないように、できるだけポジティブに過ごし、そんな僕の姿を眺める病院の皆さんの楽しそうな笑顔を見て、生きてるってやっぱり素敵だと感じました。俳優のジョニー・デップは「人生は1回しかない本番なんだ」と言っています。2回目がないなら生きている今を大切にしたい。皆さんも一緒に未来に向かって、希望を持って生きていきましょう。

希望を支える医療を福井で ~ロボット支援手術・腹腔鏡手術で挑む大腸がん~
消化器外科副部長 平﨑 憲範

病状に合わせた治療選択を

 がんは加齢に伴いリスクが高まり、現在は2人に1人ががんになる時代といわれています。部位別に見ると、大腸がんの罹患数は2023年には男性で2 位、女性で2位、総数では1位でした。大腸がんの手術は、かつては開腹手術が主流でしたが、1990年代頃から腹腔鏡手術が行われ、2010 年代にはロボット支援手術へと変わってきています。ダビンチという手術支援ロボットを用いた手術では、医師が3D画像を見ながら手元で操作すると、手首の動きに合わせて鉗子の先端が動き、実際にお腹の中を直接のぞいているような感覚で手術が行えます。腹腔鏡手術と同様にお腹に小さな穴を開けてカメラや鉗子を挿入しますが、ダビンチは画面が安定していること、鉗子のアームが自在に曲がり他臓器にぶつからず奥まで届くことで、より精度の高い手術が可能です。

 しかし最も重要なのは外科医の技術で、何時間もかかる困難な手術であっても、患者さんにとっては一生に一度のことと考え、最後まで力を尽くすことを大切にしています。当院では、手術に加え、がんゲノム医療や薬物療法を組み合わせた治療を提供しています。大腸がんは早期発見で予後が大きく変わる病気です。皆さま には、早期発見・早期治療のために検診を受けていただくようお願いいたします。

 

小さなキズで大きな安心を ~肺がん手術の進化~
呼吸器外科副部長 山岸 弘哉

肺を温存し、キズを小さくする

 肺がん手術の進化の一つは、切除範囲を小さくし、肺を温存するようになったことです。肺の手術には切除範囲が小さい順に、部分切除、区域切除、肺葉切除、肺全摘があります。肺がんの標準手術は、はじめは肺全摘でしたが、肺葉切除に変わりました。近年、小さな肺がんに対しては区域切除の成績が良いことがわかり、区域切除が増えています。もう一つの進化は手術の仕方にあります。当初はすべて開胸手術でした。その後出現した胸腔鏡手術は、開胸手術に比べ創が小さく術後の回復が早いことから主流となりました。2018年から肺がんに対するロボット支援手術が保険診療で行えるようになりました。ロボット支援手術は胸腔鏡手術と同じく小さな創からの手術ですが、胸腔鏡手術よりも細かな操作が得意です。肺がん手術、特に細かな操作が必要な区域切除ではロボット支援手術の利点を生かすことができます。

 さまざまな新しい技術のおかげで、胸腔鏡手術やロボット支援手術といった小さな創からの手術であってもこれまで以上に精密、正確な切除が可能になりました。その結果、がんが再発しにくく、かつ身体への負担が少ない手術が実現されつつあり ます。まだまだ課題はありますが、肺がん手術は今後も進化し続けると思っています。

パネルディスカッション「生きる力を考える」

宮本亞門 氏/院長 小松和人/呼吸器外科部長 松倉規/消化器外科副部長 平﨑憲範/進行 福田布貴子 氏

 

福田 まず宮本さん、治療法を決めるまでにかなり悩まれましたか。

宮本 当初はネット情報を見て混乱しました。しかし治療法の違いなどをお聞きし、「一緒に乗り越えましょう」という先生の言葉で決心しました。

福田 患者さんとの向き合い方について、どのように感じ、また対応されていますか。

小松 氾濫するネット情報に患者さんが振り回されてしまうと辛い思いをされるのではと案じています。やはり信頼できる医師に相談し、共に考えていく姿勢が大事だと思います。

松倉 患者さんの多くは肺の手術のイメージをつかめていないので、絵を描いたり、横や前から見たCT画像をお見せして説明しています。

平﨑 患者さんの不安の原因を聞き出し、安心していただくことを心がけています。それぞれの価値観を尊重すべきと気づかされることもあります。

福田 患者さんに対する周囲の対応やサポートについてのご感想やご意見をお聞かせください。

宮本 僕は、周りの人たちから気を遣われることを残念に感じたので、「がんは特別なことではない」という状況になればいいなと思っています。

小松 当院では、診療科を横断した支援や患者同士のコミュニティが設けられていますので、ご活用いただきたい。

福田 医師として、あるいは地域医療の拠点病院としてどのようなことをお考えですか。

松倉 患者さんの中には、たばこが病気の原因と考えられる方がいらっしゃいます。家族も含めて禁煙をお願いしたいと思っています。

平﨑 仕事の大変さに処遇が伴っていないと感じている若い外科医が多く、将来を担う医師が福井で育つよう外科医の魅力を伝えていきたいです。

福田 最後に、今日の感想をお願いします。

宮本 患者と医師、それぞれの生きる力が必要なこと、そして、両者が手を組んで治療を進めていくことが大事だと改めて感じました。

お問合せ窓口 

福井赤十字病院 事務部 病院経営課 TEL 0776-36-3630(代表)