365日24時間体制で患者さんを見守る麻酔科医とは

365日24時間体制で患者さんを見守る麻酔科医とは

全身麻酔について

麻酔科医は日々、手術を受ける方に対して全身麻酔についての説明を行っています。その中では漠然とですが、「麻酔ってとても怖いものですよね?」「麻酔から醒めないことはないのですか?」とおっしゃる方がいます。そんなとき「では、麻酔をしないで手術を受けることをイメージできますか?」とお話しすることがあります。

「無理! そんなことは怖くて絶対無理です!」。当然の答えです。そこで私は「全身麻酔は手術によるストレスから、身体を守る大切な役割を果たしているものなのですよ」と答えます。もちろん、初めてでも、何度経験していても不安があるのは当然のことです。私たちはまず手術を受ける方に対して、麻酔を理解してもらい、それによって少しでも不安が解消されるよう心がけています。

麻酔の歴史

全身麻酔が存在しない時代、外科手術は大変な身体的、精神的苦痛を伴うものでした。世界で初めての全身麻酔下の手術は日本で行われた!といわれています。

1804年の江戸時代、外科医である華岡青洲が経口全身麻酔薬「麻沸散(まふつさん)」を用いて、全身麻酔下に乳がんの手術に成功しました。正確で詳細な記録が残されている点から、これが世界で初めての全身麻酔症例として認定されています(通仙散(つうせんさん)という名で紹介されていることが多いですが、これは青洲の没後に作られた呼称です)。それから42年後の1846年、アメリカの歯科医ウイリアム・モートンがエーテルを用いて吸入麻酔を成功させました。以後、100年以上にわたり臨床で使用され、これが現代の麻酔の基礎となりました。

チョウセンアサガオ、華岡青洲が全身麻酔に用いた「麻沸散」の成分のひとつ。日本麻酔科学会のロゴマークになっています

麻酔の方法

全身麻酔には3つの大切な要素(条件)があります。それは、①意識をとる(手術中はしっかりと寝る)、②痛みをとる(痛みを感じないこと)、③無動化(動かないようにすること)です。この状態を維持することで手術を受けることができます。

もう少し詳しく説明しますと、①の意識をとる方法としては静脈麻酔薬といわれる鎮静薬を静脈から投与するか、吸入麻酔薬を呼吸している空気に混ぜることで眠ってもらいます。②の鎮痛は、点滴で鎮痛薬を持続的に投与することによって、痛みをコントロールしています。

③無動化、これには筋弛緩薬を使用します。この薬剤は筋肉を柔らかくする作用があり、手術手技を円滑に進めるために非常に重要な役割を果します。ただし、これら3つの薬剤はそれぞれ呼吸抑制(弱くする)作用があり、使用にあたっては人工呼吸管理が必須となります。

手術終了の時点で、これら3つの薬はすべて投与を中止します。多少の個人差もありますが、5~10分程度で目が覚めてきます。この時点で手術、麻酔は終了となります。

基本的な麻酔の方法は数十年大きな変わりはありませんが、麻酔薬はより安全で調節しやすいものになりました。また、これらを正確に適切な量の調整ができる医療機器も普及しました。日々、手術中のモニターもさまざまなものが開発され、より詳しく身体の状態を観察できるようになり、より安全な全身麻酔管理に貢献しています。

麻酔科の仕事

全身麻酔

麻酔科医は病院のなかで、どのような仕事をしているのでしょうか?

全身麻酔は術前の全身状態の確認、管理、そして麻酔について理解してもらうことから始まります。手術中は呼吸、循環を含めたさまざまな生理機能を監視、調節しています。緊急手術などでは、素早い判断と迅速な対応が求められます。

また、痛みの管理も大変重要で術中の鎮痛はもちろん、手術後の痛みのコントロールは術後の回復に大きな影響を及ぼす可能性があります。これに対しては、さまざまな鎮痛薬を使用するほか、神経ブロック(局所麻酔薬を用いて手術を行う部位の神経の感覚を弱める)などを併用します。

手術侵襲(しんしゅう)(体への負担)の大きな方は、術後に集中治療室に入っていただいて麻酔科医が全身管理を行います。集中治療室には、手術後以外にもさまざまな原因から呼吸や循環などが不安定に陥った方が入室します。その管理も当院では主治医と共同で麻酔科医が担当します。麻酔科医は24時間(365日)集中治療室で常に勤務しています。

外来診療

外来診療ではペインクリニック(疼痛(とうつう)外来)を行っています。ここでは慢性的な痛みに対してさまざまなアプローチで、疼痛はもとより精神的な苦痛の緩和を試みています。麻酔管理における鎮痛薬の使用、知識、神経ブロックなどの手技が役に立ちます。

チーム医療

院内でさまざまなチーム医療(複数の医療専門職が連携して治療やケアにあたる)を組織しています。麻酔科医の特性を生かし、以下のチーム医療などに参加しています。

  • 緩和医療チーム:がんの痛みによるつらい症状や不安、家族のサポートなどを行う
  • 栄養サポートチーム:適切な栄養管理を提供し早期回復をサポートする
  • 院内迅速対応チーム:集中治療が必要な重大な合併症や病態の変化をできるだけ迅速に発見・対応し、これらを未然に防ぐ体制をサポートする

急性期*1病院の質を維持するためには、必要不可欠な診療科のひとつだと思っています。

昨今、医師の地域かつ診療科の偏在が問題となっています。これは都道府県や診療科ごとで医師が足りないところがあるということです。今後、人口減少や医療ニーズの変化など、さまざまな問題を考慮して対応していく必要が生じます。私たちの仕事として、日常診療だけでなく、人材(医療従事者を目指す学生や研修医)の育成に対する教育にも、さらに注力していかなくてはならないと考えます。

*1 急性期:病気・けがを発症後、14日以内(目安)

朝倉氏遺跡 唐門の薄墨桜(福井市)

[参考文献]anesth.or.jp 公益社団法人日本麻酔科学会 麻酔博物館: The Japanese Museum of Anesthesiology

[挿絵]福岡 實

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