早期治療で命を救う
急性心筋梗塞の治療
突然死の原因となる心臓疾患
心臓は胸のほぼ中央にあり、大きさは握り拳大の筋肉でできた臓器です。毎日およそ10万回に近い拍動を絶え間なく繰り返すことで、全身へ血液を送り出す大切なポンプの役割をしています。このため、心臓の筋肉(心筋)は常に大量の酸素と栄養分を必要としており、これらを心臓の表面に分布する冠動脈と呼ばれる血管から受けています。
冠動脈は、心臓の出口すぐの大動脈の根元から枝分かれして、心筋内に分布しています。一般的に冠動脈は左右それぞれ1本あり、左は大きく2本に分かれています。左の前の方へ流れる血管を(左前下行枝(ひだりぜんかこうし))、後ろの方へ行く血管を(左回旋枝(ひだりかいせんし))、右側の血管を(右冠動脈)と呼びます(図1)。この冠動脈に急激に障害が起こり、血液の流れが途絶する疾患が急性心筋梗塞(きゅうせいしんきんこうそく)です。厚生労働省の人口動態統計によると、2023年の日本人の3大死因は、1位悪性新生物(がんや悪性腫瘍(あくせいしゅよう))、2位心臓疾患、3位老衰となっています。その心臓疾患の中でも、突然死の原因となることが最も多いのが、急性心筋梗塞です。突然、冠動脈の血流が途絶することで、心筋へ酸素や栄養が行き渡らなくなり、心筋が壊死(えし)(組織や細胞が死んでしまうこと)してしまいます。これにより心臓のポンプ機能が低下して、全身へ血液を送り出せなくなります。壊死する心筋の範囲が大きいほど、急性心筋梗塞は重症になり、致死性の不整脈や心不全を合併して、突然死の原因となります。
急性心筋梗塞の原因
冠動脈は元来、弾力性があり、血液がスムーズに流れるように血管内壁はとてもなめらかです。しかし、加齢や長年の生活習慣の影響で、血管が硬くなり、血管内壁にコレステロールが蓄積して、動脈硬化巣(プラーク)が形成され、徐々にコブのように突出するようになり、血管内腔が狭くなっていきます。
高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病、肥満や喫煙もプラーク形成を助長することになります。このプラークがストレスや血圧の変動で突然破綻して、急激に冠動脈内に血の塊(かたまり)ができ、血流が途絶することになり、急性心筋梗塞を発症します。
プラークの破綻は、血管内腔が保持されていても、突然発症することが多く、前駆症状を伴わないため、「初めて感じた胸痛が急性心筋梗塞だった」という患者さんが多くなります(図2)。
急性心筋梗塞の症状
典型的な症状には、冷汗を伴う、締めつけられるような前胸部圧迫感や、呼吸困難感があります。頸部(けいぶ)・下顎(かがく)、肩から上肢(じょうし)、心窩部(しんかぶ)へ痛みが放散することもあり、持続時間は数分から数時間に及び、症状が悪化して突然意識を失うこともあります。特に糖尿病、脂質異常症、喫煙などの危険因子を持っている患者さんは注意が必要です。
急性心筋梗塞の治療
急性心筋梗塞の治療では、1)冠動脈形成術、2)薬物療法、3)心臓リハビリテーションの3つが重要です。
1)早期の冠動脈形成術施行(写真)
急性心筋梗塞の治療で最も大切なことは、できる限り早く、途絶した冠動脈の血流を再開させることです。発症してからの時間が経過するほど、壊死してしまう心筋の範囲が大きくなり、心臓の機能が大きく障害されることになります。
血流再開のゴールデンタイムは、発症後6時間以内といわれており、48時間以上経過してから血流を再開させたとしても、治療効果は期待できません。冠動脈への血流を再開させるためには、薬物療法だけでは困難で、カテーテル・バルーン・ステントと呼ばれる治療器具を用いて、冠動脈の閉塞(へいそく)部位を機械的に拡張する冠動脈形成術(図3)が最も有効です。
回旋枝に閉塞を認め、同部位にステントによる治療を行い、再灌流治療に成功している
問診、採血、心電図検査などで急性心筋梗塞と診断した後、できる限り早く心臓カテーテル室に入室し、手首や足の付け根の動脈に局所麻酔を行います。そして経皮的にカテーテル(医療用の細い管)を挿入し、冠動脈に造影剤を注入することによって閉塞部位を確認します。その後、カテーテルからバルーン(風船)・ステント(筒状になった網目の金属)を冠動脈内に挿入し、閉塞部位を拡張して途絶していた血流を再開させます。
当院では、急性心筋梗塞の患者さんが、病院に到着してから冠動脈形成術で血流を再開させるまでの平均時間は75分程度であり、早期の治療施行に努めています。
2) 継続した薬物療法
冠動脈形成術を受けた後には、必ず数種類の内服薬の服用が必要になります。血液を固まりにくくする抗血小板剤、動脈硬化の進展を抑えるコレステロール降下薬、心臓の負担を軽減するβ遮断剤、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬などがあります。
抗血小板剤は減量も可能ですが、これらの内服薬は基本的には、長期間の継続した服用が必要です。
3) 心臓リハビリテーション
心筋梗塞で低下した心臓の機能や体力を回復させるために、専門の理学療法士の指導の下、心臓リハビリテーションを行います。心臓リハビリテーションを行うことによって、その後の死亡率や心血管系疾患の再発率を低下させることが報告されています。



