認知症を早期から治療する時代へ
超高齢社会に伴って増える認知症
わが国では、2023年に65歳以上の人が全体の29.1%を占め、超高齢社会になっています。厚生労働省の研究(厚生労働科学研究成果データベース「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」)によると、2025年には認知症の人が700万人になると見込まれています。その後も、認知症の人がどんどん増えていくと予想されています。
認知症の中で最も多いタイプは?
認知症の中で一番多いのはアルツハイマー型認知症で、全体の67.6%を占めています。次に多いのは血管性認知症で19.5%、その次がレビー小体型認知症で4.3%です。
アルツハイマー型認知症は、脳の中にアミロイドβというたんぱく質が溜(た)まって、神経が少しずつ壊れていく病気です(図1、2)。このため、もの忘れがひどくなって、日常生活が難しくなります。具体的には、同じことを何度も聞く、日付や場所がわからなくなる、お金や薬の管理がうまくできなくなるといった症状が出ます。
アルツハイマー型認知症では症状が出る15~20年前からアミロイドβが溜まり始めている
(認知症学会HPより https://dementia-japan.org/general/about_dementia/)
アミロイドβたんぱく質が固まった老人斑と呼ばれるシミが無数に見られる
(認知症学会HPより https://dementia-japan.org/general/about_dementia/)
アルツハイマー型認知症の新しい治療薬
主要評価項目はCDR-SB(Clinical Dementia Rating-Sum of Boxes)スコアの18ヶ月後の変化量
投与開始から18か月時点での認知症の症状進行を27.1%抑制したことを示しています
(「N Engl J Med」van Dyckほか、2023; 388:9-21より引用)
これまでのアルツハイマー型認知症の治療は、病気の進行を少しでも遅らせるために、脳の中の神経伝達物質であるアセチルコリンの働きを助ける薬しかありませんでした。しかし、2023年12月20日に新しい治療薬「レカネマブ」が発売されました。
レカネマブは、アルツハイマー型認知症の原因の1つとされる「アミロイドβ」という物質に働きかけます。この薬はアミロイドβの塊にくっついて、これを取り除く手助けをします。これにより、脳の中のアミロイドβの塊を減らすことができます。レカネマブを使うことで、アルツハイマー型認知症の進行を遅らせ、記憶力や判断力の低下を緩やかにし、治療しなかった場合と比べて日常生活でできることが増えます。
レカネマブは、2週間に1回、点滴で使う薬です。この薬は、MMSE*1(簡易認知機能評価尺度)で22点以上、CDR*2(臨床認知症尺度)で0.5か1の、MCI(軽度認知障害)や軽いアルツハイマー型認知症の患者さんが対象です。MCIは軽度の認知機能低下を示しますが、日常生活に大きな影響を与えるほどではありません。一方、軽度アルツハイマー型認知症は、認知機能の低下が日常生活に支障をきたす段階であり、進行性です。中等度以上の認知症の人には使えません。中等度以上の認知症とは、具体的には「お金の管理や服を選ぶのに手助けが必要な状態」を指します。
レカネマブを始める前に、厚生労働省が定めた条件を満たしているかどうかを、MRIやアミロイドPET、または髄液(ずいえき)検査で調べる必要があります(図3)。この薬では症状を改善するのは難しいですが、脳の中のアミロイドβを減らし、18か月間使うことで、日常生活の機能低下を27%抑えることができました(図4)。
レカネマブの治療には、注射による副反応やARIA(アミロイド関連画像異常)といった合併症があります。そのため、治療後も定期的に頭部MRI検査が必要です。また、治療は2週間ごとに行うため、通院の手間がかかります。さらに、この治療は他の認知症薬よりもかなり高額で、高額療養費制度の対象となります。レカネマブの治療を希望する患者さんは、当科を含めて、専門医を受診してください。なお、レカネマブが使えない場合には、ドネペジルなど従来の薬を使用することが可能です。
*1 MMSE:世界各国で用いられている認知機能の評価を行うための認知症の検査の1つ
*2 CDR:認知症の重症度を評定するための検査。6つの項目を診察上の所見や家族など周囲の人からの情報に基づいて評価
より早期の治療を目指して
アミロイドβを減らす薬が登場したことで、早期のアルツハイマー型認知症の患者さんに使用すると、より良い効果が期待されます。「最近の出来事や会話の内容をすぐに忘れる」「お金の管理や予定を立てるのが難しくなる」などの症状が見られたら、早めに専門医を受診することをお勧めします。当院でも診察を行っていますので、相談してください。



