肺がんの診断と薬物療法の進歩
長期予後をめざして
肺がんとは
肺がんは、約30年間の長きにわたって、わが国の死因として、多くの日本人を苦しめてきた難病です。気管支や肺胞の細胞が、喫煙などの刺激によってがん化したもので、胸部、肺内に発生します。
数ある悪性腫瘍(あくせいしゅよう)のなかでも、肺がんが死因となりやすい原因としては、以下の点が挙げられます。
- 外部からの刺激を受けやすい:肺の細胞は、呼吸によって体外の空気、ほこり、煙、ウイルス、病原体などの吸引、肺内への進入による刺激を絶えず受けており、その結果、がん化しやすく、肺がんの罹患頻度(りかんひんど)が高いことが想定されます。
- 進行の速さと転移のしやすさ:肺がんは進行が早く、病状が急速に進んでしまうことが多いです。また、脳や骨、肝臓といった主要臓器に転移しやすく、致命的になることが多いです。
- 呼吸機能への影響:肺という呼吸を行っている重要な場所を侵すため、病状が進行すると息ができなくなってしまうことがあります。
当科では、この凶悪な難敵である肺がんに対抗するため、診断や治療、あらゆる最新医療の導入、実行に努めています。
肺がんの最新診断
肺がんは急速に進行し、手遅れとなる可能性が高い疾患なので、診断は迅速でなければなりません。当科では、初診即日に、高精細なCT画像を用いて肺がんであるか否かを判断し、1週間以内に、PET(ペット)やMRなどを用いて、全身の転移診断、悪性度の予測、病期ステージ診断を行います(図1)。
これと並行して、がん細胞の生検によるサンプル採取を行い、がん組織そのものより得られる情報として、組織のタイプ、発がん遺伝子の有無、薬剤に反応するタンパク質の発現などを速やかに検査します。これらの情報に基づいて、最適な治療方法を選択することができます。
これらの検査を速やかに行うことは非常に重要で、時間がかかりすぎると肺がんの進行スピードに負けてしまうのです。当院の特徴は、CT、PETが俊敏に実施できることであり、高精度な画像を用いて、精密な診断を迅速に行えることです。
また、がん細胞の生検によるサンプル採取については、施設により差が出やすい部分です。当科では、即日対応の緊急検査を含めて、気管支鏡、胸腔鏡(きょうくうきょう)、超音波内視鏡、EBUS-TBNA(超音波内視鏡下経気管支針生検)、エコー下経皮生検などの方法で、肺がんサンプル採取が可能な装備を整えています(図2)。
とりわけ、このような苦痛や危険を伴いやすい検査について、当院では、さまざまな工夫により苦痛を最小限に抑え、高い成功率で安全に行えるよう努めています。全国でも高い技術を誇っており、国内外の学会、医学誌にも成果を示しています。
肺がんの最新治療
肺がんの治療の進歩については、ロボット支援手術に代表される外科的治療と薬物療法に集約されるといえます。この深刻な病気を、CTなどで早期に発見できれば、外科的治療が主役となり、手術が困難な進行期に診断された場合は薬物療法が主役となります。薬物療法のなかでも、近年、進行肺がんの余命を1年以内から、2~4年、場合によっては5年以上に、劇的に延長させた薬剤が2つあります。1つは分子標的薬であり、もう1つは免疫チェックポイント阻害薬です。
分子標的薬は、肺がん細胞サンプルからの遺伝子診断によって特定された発がん遺伝子に対して、そのがん細胞に特異的に効果を示す薬剤です。そのため、従来のいわゆる抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)とは異なり、正常細胞への影響が少なく、副作用も軽減されるため、有効性が高く、長期にわたり肺がんを抑え込むことができます(図3)。
一方、免疫チェックポイント阻害薬は、PDL-1というタンパク質をがん細胞が多く発現していると効果が高くなります(図4)。そのため、肺がん細胞サンプルからの遺伝子診断やそのほかの情報が薬剤選択のうえで大きな意味を持つことになります。免疫チェックポイント阻害薬が効果を示す例では、1年余にわたり、全く副作用なく肺がんを抑制するので、5年以上にわたって、通常の生活が送れる患者さんも増えてきました。
また、免疫チェックポイント阻害薬は、放射線治療により効果が増強されたり、抗がん剤や手術の効果を高めたりすることも知られています。ただし、使用に際しては高度の技術や知識、経験が求められ、副作用も全身多岐にわたるため、その対応が必要です。当院では、個々の症例について、緊密なカンファレンス(検討会)などにより、治療の成果が向上しています。



