当院で腎移植を立ち上げて10年

当院で腎移植を立ち上げて10年

腎代替療法

腎不全(じんふぜん)が進行して末期腎不全になると、腎機能を補うための治療法が必要になります。その治療法のことを腎代替療法といい、血液透析、腹膜透析、腎移植の3つの選択肢があります(表)。それぞれにメリットとデメリットがあり、腎移植の最大のメリットは厳しい食事制限・水分制限から解放されること、また透析中の時間的・身体的拘束からも解放される点です。

腎移植の現況

腎代替療法の3つの選択肢がバランスよく普及することが理想です。しかし、日本では血液透析が突出して多く、腎代替療法の大部分を占めています。2010年の時点で、末期腎不全の腎代替療法における腎移植の割合は全体の3%に過ぎません。腎移植は近年着実に増加しているものの、まだ十分とはいえません。 

海外では、特に欧米を中心に腎移植が腎代替療法の標準治療として広く普及しています。一般的に腎移植の多い国では献腎移植が主流ですが、日本では90%以上が生体腎移植であり、献腎移植の割合は約10%にとどまっています。この割合は過去20年間ほとんど変化がありません。

将来的には豚の腎臓を用いた異種移植や、iPS細胞を用いたクローン技術などが実用化される可能性もありますが、日常的に行われるには、まだ時間が必要と思われます。

表 腎代替療法の選択肢
(「腎不全 治療選択とその実際2024版」日本腎臓学会、日本透析医学会、日本移植学会、日本臨床腎移植学会、日本腹膜透析医学会 編、株式会社ヴァンティブ 発行より引用)

当院での腎移植立ち上げ

腎移植の実施件数は都道府県ごとに大きな偏りがあります。マンパワーの充実している都市部では実施件数が多く、人口の少ない地方では少ない傾向があります。例えば、2010年の愛知県における腎移植実施件数は121件ですが、福井県では0件でした。

地域医療を担う私たちにとって、腎代替療法の標準治療を提供することは重要な使命です。そこで当院では、2年間の準備期間を経て、2013年から腎移植を開始しました。

当院での腎移植成績:2013年11月に生体腎移植1例目を成功させて以来、2024年6月現在までに19例の生体腎移植を施行してきました。19例すべて移植腎は生着しています(図1)。腎移植レシピエント (移植を受ける患者さん)の平均年齢は54歳で、夫婦間での移植が全体の約半数を占めました。また、全国的に維持透析を経ないで腎移植を行う先行的腎移植(PEKT)が増えており、当院でも半数ほどの症例がPEKTです。

図1 腎移植後の生存率と生着率

コロナ禍をきっかけに、県外で腎移植手術を受けて、その後も遠方に通院していた腎移植患者さんのフォローアップ目的の紹介が増えました(図2)。

図2 腎移植件数、紹介患者数、外来通院患者数

当院の役割

地方の中核病院として腎移植を行う私たちの役割は、大きく3つに分けられます。

第一に、地元で腎移植を行うことです。患者さんとその家族が自分の住んでいる地域で検査や手術を受けることで、移動にかかる時間や費用の負担を大幅に軽減できます。

第二の役割は、術後のフォローアップです。移植患者さんの高齢化が問題になっています。また、昨今のコロナ禍など、災害に近い状況で遠方への移動が難しくなった場合の受け皿は必要でしょう。

最後に、地方で最も重要な役割として、腎移植に関する知識の普及と啓発活動と考えます。腎移植についての正しい理解を広めることは、地域医療の質を向上させるうえで欠かせません。

今後の課題

地方の中核病院として腎移植を立ち上げてから10年間、大きな問題なく継続することができました。今後は、腎移植医療を継続し、地域医療として定着させていくことが課題です。

腎移植は生涯にわたり免疫抑制療法を維持していく必要があります。全国的にも移植成績が向上し、長期的に移植腎が生着する患者さんが増加しています。一般診療の場でも日常的に移植患者さんと接する機会が増えるでしょう。地元のクリニックや病院との連携を充実させることにより、地域全体で移植患者さんが安心して生活できる環境を整えていく必要があります。

マンパワー不足のため、献腎移植を開始することは今後も難しい状況ですが、少ないながらも生体腎移植を継続的に施行し、移植患者さんを長期にわたってフォローアップしていけるよう努めてまいります。

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