体への負担が小さい消化管がんに対するESD治療

体への負担が小さい消化管がんに対するESD治療

消化管の構造とがん発生部位

食道や胃、大腸などの消化管は層構造になっており、内側から粘膜層(ねんまくそう)・粘膜下層(ねんまくかそう)・固有筋層(こゆうきんそう)・漿膜下層(しょうまくかそう)・漿膜となっています。がんは通常、最も内側の粘膜層から発生し、粘膜下層、筋層へと深く広く進行していきます。

がんが深く進行すると、リンパ節や血流に乗って他の臓器へ広がり、転移をきたします(図1)。しかし、粘膜内にとどまっているがんのほとんどは転移のリスクがありません。そのため、その場所を切除することで治癒が可能です。そこで内視鏡でがんとその周囲の粘膜を切除する方法が開発されました。

図1 消化管壁の構造とがんの進行

内視鏡での切除法 EMRとESD

以前から内視鏡的粘膜切除術(ないしきょうてきねんまくせつじょじゅつ)(EMR)という治療法がありました(図2)。EMRは、粘膜の下に注射して盛り上げたのちに金属の輪(スネア)を使って切除します。短時間での切除が可能ですが、一度に切除できる大きさに限度(約2cm)があり、引きつれなどがあると切除が困難でした。

図2 内視鏡的粘膜切除術(EMR)

そこで内視鏡的粘膜下層剥離術(ないしきょうてきねんまくかそうはくりじゅつ)(ESD)が開発されました(図3)。ESDは粘膜の下(粘膜下層)に注射して、がんを浮き上がらせたのち、内視鏡の先端から特殊な電気メス(高周波ナイフ)を用いて、がんの周囲の粘膜を切り開き、粘膜下層を剥(は)がして切除します。

図3 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
表 EMRとESDの比較

従来のEMRに比べ、ESDは内視鏡による繊細な作業が必要ですが、切除サイズには限度がなく、引きつれなどがあっても切除が可能です。これにより、外科切除を行わずに治療できる範囲が大幅に広がりました。

現在は、それぞれの特徴を考慮し、EMRとESDを使いわけています(表)。

ESDでの治療対象

ESDは胃から治療が始まり、その後、食道や大腸へと広がっていきました。食道や大腸は筋層が非常に薄く、特に大腸は曲がりくねっていることも多いため、さらに繊細な操作が必要となってきます(そのため、治療はまず2006年に胃がんに対して認可され、その後2008年に食道がん、2012年に大腸がんに対して認可が下りました)。

EMRやESDによる内視鏡でのがん治療の大原則は、転移のリスクがほとんどなく、腫瘍(しゅよう)が一括切除できるものであることです。ESDでは切除のサイズには限界はありませんが、深さは粘膜下層までしか切除できません。また、切除できたとしても転移のリスクが高く、治癒が望めない場合には、原則として治療の対象外となります。しかし、超高齢者などで全身状態の問題があり、外科手術が困難な方には、多少の転移リスクがあるがんに対してESDを行うこともあります。

ガイドラインでは、各臓器により治療対象が若干異なりますが、データの積み重ねによりその範囲は徐々に広がっています。

ESDと他科との共同手術

近年、当院では耳鼻咽喉科と協力して咽頭(いんとう)(のど)のがんに対する内視鏡治療も行っています。従来であれば発見困難で、評価も難しい表在がん(粘膜下層までにとどまっているもの、早期がん)も内視鏡の進歩とともに発見が可能となり、ESDの手技を使用して内視鏡による治療を行っています。咽頭のESD治療の際は、全身麻酔を使い、手術室で耳鼻咽喉科と協力して治療を行います。

また、ESDは粘膜を切除する治療法ですが、その方法を応用して転移リスクの少ない胃粘膜下腫瘍(胃の筋層から生じている腫瘍など)に対しては、胃カメラと腹腔鏡(ふくくうきょう)(外科の内視鏡)を同時に使用して胃の内側から内科が、外側から外科が協力して手術を行っています。この治療はLECS(腹腔鏡・内視鏡合同手術)と呼ばれています。LECSは内側と外側から切除することで、切除範囲を最小限に抑えることができ、術後の胃の変形を最小限にとどめることが可能です(図4)。そのため、術後の機能低下を抑えることが期待できます。

図4 LECS(腹腔鏡・内視鏡合同手術)

まとめ

ESDは胃から始まり、食道や大腸への治療にも適用され、現在では咽頭や胃粘膜下腫瘍の治療にも応用されるようになりました。内視鏡による治療は外科手術に比べて患者さんの体への負担が小さく、今後もESDの手技を利用した新たな内視鏡治療のさらなる広がりが期待されています。

当院では、今後も体への負担がより小さい内視鏡手術を積極的に取り入れていく予定です。

より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください
質問:このページの内容は参考になりましたか?
質問:このページの内容はわかりやすかったですか?
質問:このページは見つけやすかったですか?