腹腔鏡下の動脈クリッピングを併用した子宮鏡下手術(腹腔鏡下手術全般を含めて)

腹腔鏡下の動脈クリッピングを併用した子宮鏡下手術(腹腔鏡下手術全般を含めて)

当科における腹腔鏡下手術、 子宮鏡下手術の変遷

図1 子宮・卵巣のつくり

産婦人科の診療において、1994年に腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)が健康保険で認可されました。当院でも当初より腹腔鏡下手術を積極的に導入し、2006年には年間50件以上の手術を実施しました。現在では、毎年200件以上の腹腔鏡下手術を行っており、この件数は県内最多です。これは当院に腹腔鏡下手術の技術認定医が2人(田嶋医師と辻医師)在籍していることが大きな要因です。また、当院は腹腔鏡下手術の研修施設としても認定されており、これまで当院で指導を受けた2人の医師が技術認定医として認定されています。

さらに、当院では子宮鏡下手術(図2)も行っています。田嶋医師は福井県で唯一の子宮鏡下手術の技術認定医であり、多くの手術を施行しています。最近では、より細い直径の子宮鏡が使えるようになり、不妊症患者さんに対しての子宮頸管(しきゅうけいかん)ポリープ切除術が日帰りで実施できるようになり、患者さんの体にもやさしく、また利便性も高まっています。

図2 子宮鏡下手術

当科では、腹腔鏡下手術および子宮鏡下手術の技術が安定しており、患者さんに安心して手術を受けてもらえる体制を整えています。また、産婦人科の手術が患者さんの体の負担にならないよう、これらの手術を以下に述べる疾患においても、より安全に行えるよう検討を重ねています。産婦人科の腹腔鏡下手術を多くの患者さんに実施してきた病院として、今後も治療および教育に力を入れていきたいと思います。

大量出血をきたす産科疾患に対する腹腔鏡下の動脈クリッピングを併用した治療

子宮頸管妊娠や帝王切開瘢痕部(はんこんぶ)妊娠(図3)、RPOC(retained products of conception:分娩や流産後の子宮の中に遺残物が残る疾患群の総称)は妊娠に関連した疾患です。時に大量の出血をきたし、残念ながら子宮摘出が必要になる場合があります。しかし、将来の妊娠・出産を考えると、患者さんのみならず医療者も子宮を摘出することは可能な限り避けたいです。これらの疾患は非常にまれなことから、適切な治療法が確立しておりません。いずれの疾患も子宮の内容物を除去する必要がありますが、不用意な除去は大量出血を引き起こすことがあるため、予防策を立てなければなりません。

図3 帝王切開瘢痕部妊娠

当科では、腹腔鏡下に大量出血の原因となる子宮動脈をクリッピングして血流を一時的に遮断したうえで、子宮鏡を用いてカメラで病変を直接見ながら、子宮の内容物を取り除くという治療を行っています。このような手術を行うには、腹腔鏡および子宮鏡ともに高度な技術が必要となります。腹腔鏡下に子宮動脈を露出する際には、出血の危険を伴いますが、これは腹腔鏡下子宮全摘術と同様の技術であり、当院では十分に熟練した医師が担当しています。

この治療法の最大のメリットは、出血の危険がある際に限って子宮動脈の血流を止める点にあります。お産のときの大量出血に対しては、血管内治療により子宮動脈をゼラチンスポンジなどの物質(塞栓(そくせん)物質)で塞(ふさ)いでしまう子宮動脈塞栓術(図4)が選択されることもあります。しかし、塞栓物質がなくなり血流が再開するまでに一定の期間を要します。ある期間子宮動脈の血流を止めても、月経が再開することや妊娠には大きな問題がないという報告があるものの、一方で分娩時の出血の危険が非常に高い癒着胎盤関連疾患の合併が多いとの報告もあります。

図4 子宮動脈寒栓術

子宮動脈の一時的なクリッピングは、子宮動脈塞栓術に比べて、血流を止めている時間が短く影響が少なくなる可能性があります。今後は、長い期間での子宮動脈クリッピングの治療効果の検討が必要と考えています。

当院では、子宮動脈の一時的クリッピングを行っても止血が困難な場合は、子宮動脈塞栓術や子宮動脈をしばる結紮術(けっさつじゅつ)を追加で行うことが可能です。この治療法は、院内での倫理委員会の承認の下、患者さんへの十分な説明を行い、同意を得て実施しています。この腹腔鏡下子宮動脈クリッピングをより安全に行うために以下の1)から4)が必要と考えています。

1)妊孕能(にんようのう)(妊娠する能力)の温存を希望している

2)手術以外の保存的療法が患者さんにとって適切ではない

3)出血がコントロールでき、血圧などバイタルが安定している

4)腹腔鏡下の手技が行える環境(手術者、麻酔科医師、手術室など)が整っている

これらの要件を満たすことで、大量出血を引き起こす産科的疾患に対しても、比較的安全に腹腔鏡下の動脈クリッピングが行えると考えています。まれな疾患群ではありますが、これまでに5人以上の患者さんに対して、大量出血や子宮摘出を回避する治療を行うことができました。

今後も子宮内容除去を行う際の出血を最小限にし、妊孕能の温存を重視した治療に取り組んでまいります。

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