卵巣がん治療の進歩 手術・薬物療法・遺伝学的検査で治癒をめざす
卵巣がんの症状
卵巣がんは初期には症状が出にくく、発見されたときには進行していることが多いがんです。また、進行するとすぐにお腹(なか)の中(腹腔(ふくくう))に病変が散らばってしまうことが特徴です。これを播種(はしゅ)性転移といいます(図1)。
進行後の症状として、腫瘍(しゅよう)や腹水の貯留による腹部膨満がしばしば見られますが、不正出血などの婦人科的な症状はほとんど生じません。ここでは、進行した卵巣がんに対する最近の治療法について説明します。
手術で腫瘍を減量し 薬物療法につなげる
進行卵巣がんの手術では、目に見える病変を切除しても、微小な播種病変をすべて取り除くことが困難です。このため、通常は手術後に薬物療法を追加して、残った病変の消失を目指します。術後の薬物療法の効果を高めるには、手術のときに可能な限り腫瘍を取り除いておくことが重要です。
手術では、がんを含む卵巣・卵管・子宮・大網などを切除します。がんの広がりによっては、腸や膀胱の一部を切除することがあり、当院では外科や泌尿器科と連携して手術を行っています。
卵巣がんが切除困難なほど広がっている場合は、まず薬物療法を行い、腫瘍を縮小させてから手術を行います(術前化学療法)。十分な切除が可能かどうかは、術前にCTやMRI検査などの画像検査を行って判断しますが、判断が困難な場合は腹腔鏡でお腹の中を観察する方法がしばしばとられます(審査腹腔鏡:図2)。
腹腔鏡検査は1~3cm程度の創(きず)で行われるため、体への負担はあまりありません。腹腔鏡での観察所見に基づいて、直ちに手術を行うか、術前化学療法を行ってから後日手術を行うかを決定します。
分子標的薬の登場で進歩した 薬物療法
これまで、進行卵巣がんの薬物療法として、パクリタキセル・カルボプラチンの2剤を用いた化学療法(TC療法)が行われてきました。最近の薬物療法の大きな進歩は、がんの増殖などにかかわっている分子を標的とした分子標的薬が使用されるようになったことです。
例えば、分子標的薬のベバシズマブは腫瘍の血管新生を阻害することで、腫瘍増殖を抑制します。また、最近ではオラパリブやニラパリブといったPARP(パープ)阻害薬がしばしば用いられます。PARPは損傷したDNAを修復する酵素の1つで、その働きを阻害することで腫瘍細胞を死滅させます。このPARP阻害薬は、後述のBRCA遺伝子変異がある場合に特に効果があることがわかっています。
遺伝学的検査と個別化医療
BRCA遺伝子は、細胞のDNA修復に関与し、変異があると卵巣がんや乳がんの発生リスクが増加します。卵巣がんの約15%でBRCA遺伝子の変異がみられます。BRCA遺伝子に変異のある卵巣がんでは、PARP阻害薬やプラチナ系抗がん剤の効果が期待できます。
最近では、がん組織のBRCA遺伝子変異やDNA修復能を調べる検査を行い、それに基づいて治療薬を選ぶことが多くなりました。手術・薬物療法・遺伝学的検査の組み合わせにより、近年の卵巣がんの治療成績は向上しつつあります。しかし、卵巣がんにはさまざまな種類(組織型)があり、通常の薬物療法が効きにくいものがあります。
例えば、日本人に多いとされる明細胞がんなどです。このような腫瘍に対しては、遺伝子パネル検査を用いた治療が期待されています。遺伝子パネル検査では、がんで異常を起こしている遺伝子を網羅的に検出し、その情報をもとに個々の患者さんに適した治療薬を決定します。このように、患者さん一人ひとりの病気の特徴に合わせた「個別化医療」が今後は進んでいくと考えられます。
BRCA1/2遺伝子の働き(図3)
BRCA遺伝子は、誰もが持っている遺伝子のひとつで、DNAの傷を修復して、細胞ががん化することを抑える働きがあります。体の設計図であるDNAは、健康な人でも紫外線や化学物質などの刺激によって日常的に傷つけられています。しかし、通常の細胞には、傷ついたDNAを修復する機能が備わっています。このDNAの修復で重要な働きをしているのが、BRCA遺伝子です。
BRCA遺伝子に変異があるとDNAの傷が集積し、発がんリスクが高まります。
BRCA遺伝子変異による発がんリスク
人の体には2種類のBRCA遺伝子が備わっています(図3:BRCA1および2)。BRCA1遺伝子が遺伝的に変異して働かなくなった人は、70歳までに40%が卵巣がんを発症するといわれています。この発症確率は、BRCA2変異の場合は18%です。同様に、BRCA遺伝子変異があると乳がんの発症リスクも高くなり、70歳までにBRCA1変異では57%が、BRCA2変異では49%が乳がんを発症するとされます。
進行卵巣がんの患者さんは、BRCA変異の有無を保険で調べることができるようになりました。BRCA変異の有無により、その後の治療に使用する薬剤が選択されます。
また、BRCA遺伝子の変異は遺伝する可能性があります。患者さんのお子さんに遺伝した場合には、お子さんの卵巣がんや乳がんの発がんリスクが高くなります。BRCA遺伝子の変異が発見された患者さんに対して、当院では専門の医師が遺伝カウンセリングを行い、遺伝する確率や必要な検査方法などについて十分な説明を行っています。



